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19世紀、名実ともにパリが文化・芸術の中心となった時代、
ブルジョワ家庭で流行った愛らしい小箱があります。 
Articles de Paris (パリの品物)』として、
当時のブルジョワたちは自らのステータスや趣味の良さを披露するアイテムとして、
美しい小箱をコレクションしていました。
今では希少なマーケトリー技法の美しい小箱、大切なものを入れて部屋にアクセントを。

「ロマン派時代の小箱」

19世紀のパリで隆盛を誇っていた、上流ブルジョア階級の風俗習慣や好みの貴重な証人ともいうべき「ロマン派時代の小箱」− このアイテムは、ある種非生産的なものの魅力に敏感であった、過ぎ去りし世界を彷彿させてくれます。
 
これらの小箱には、パリの装飾家具職人や細工師といった名工(Tahan、Giroux、Vervelleなど)の巧みな職人技が随所に散りばめられています。この小さな「ロマン派時代の小箱」の存在は、19世紀フランスの装飾芸術の魅力を物語っているのです。
 
「ロマン派時代の小箱」には、道具としてのアイテム「中に収納するものに適した容れ物」という単なる実用的な価値以上の意味が隠されています。そこには、かつての持ち主の個人的・社会的な行動様式がとてもクリアに反映されれており、在りし日の彼らの生活を読み解いていくことができるのです。
 

 
 

ふたに刻まれた文字

「紅茶」、「コーヒー」、「チョコレート」、「身繕い」、「訪問」、「ホイスト」(カードゲーム)、「かぎ針」…等、ふたに刻まれた文字は、往年のパリのブルジョアジーの生活様式や時間の過ごし方を雄弁に物語っています。
 
一日を通して、あるときは小部屋の片隅に、あるときは人前に置かれていた小箱を手に取ると、特定の活動や特定の時間を連想させてくれます。
 
このエレガントな小物は、フランス式のある種の「art de vivre(アール・ド・ヴィーヴル、生活美学)」に触れさせてくれる媒体であるだけでなく、男女間の交流や社交界での付き合いを構成する要素をも伝えてくれています。
 
19世紀になると、ふたに文字の刻まれた小箱の製造・販売が大幅に拡大しました。
 
フランス特有の手仕事であるこれらの品は、「パリの品物 Articles de Paris」(主にパリで作られる高級小間物のこと)と称され、「パリを起点として、必需品、装飾を施された財布、あらゆる種類の箱、そして趣味の品などが、フランス国内外へと出荷されている」と報告されています(1839年のフランス産業博覧会 報告書)。
 
新興階級であるブルジョアジーは、本来は貴族や実業界の名家のために作られたこれらの品々を手に入れることで、自分たちの社会的成功を誇示し、フランス革命以前の貴族のような優雅で洗練されたライフスタイルを追い求めたのです。
 

 

 

 

 
 

新年の贈り物として

「新しい年が近づいてきましたが、親愛なる読者の皆様には、ぜひキャプシーヌ大通り6番地にあるオーギュスト・クライン氏の美しく壮大な黒と金色の店舗を訪れることをお勧めします。真に美しく芸術的なものに対して敏感な人びとに大人気のお店です。新年の贈り物として、愛らしく、洗練され、魅力的な独創性にあふれた品物がたくさん見つかることでしょう。ただし皆様ご注意ください、この宮殿には誘惑の精霊が取り憑いていると思われますから」
(『Revue des magasins(ショップレビュー)』誌 1867年11月号)
 

収納のニーズを美しく満たすために

「アパルトマンの家具の隣には、副次的な用途のために作られた小さな高級装飾家具が置かれることが多いが、ほとんどの場合は使われていない。そしてこれらの小さな物が、アパルトマンの中で重要な位置を占めることも多々ある」
(1844年のフランス産業博覧会 報告書)
 

 
 

友情や敬意を示すために

愛情のしるしに、これらの箱は友人、恋人、夫、兄弟、姉妹、等々の記念の品として贈り合ってきました。
 

淑女たちの小箱
身繕いの品とファッション・アクセサリー

寝室、サロン、化粧室として使われていた女性の私室には、ベールに包まれた淑女の身支度や日々の美のお手入れに関係する、さまざまな種類の豪華な小箱が置かれていました。
 
ブドワール(女性の居間)という名で知られるこの空間は(この用語は19世紀半ばに徐々に使われなくなりましたが)、女性らしさの真髄を反映しており、身だしなみを整えたり、化粧品を並べたり、服飾雑貨や女性用の装身具などを整理したりするための多種多様な小箱が置かれていました。
 
パウダーやローション、フレグランスなどの化粧品や美容製品を収納する必要性から、特別に設計されたフレグランスボトルを備えた「匂いの箱boîtes à odeurs」が製造されました。
 
布製のベルトや刺繍入りのハンカチ、髪を巻くための破れやすいカールペーパーなどは、それぞれ専用の箱に入れて大切に保管されていました。
 
手袋についても同様です。当時手袋は、社交の場で女性の手を守るために必要不可欠なアイテムとして、1ダース単位で購入されていました。
 

紳士たちの小箱
身繕いの品とブルジョアの経済的価値観

19世紀を通じて、男性のニーズに合わせてさまざまな小箱が作られました。中には、高価なカミソリの柄や可動式の刃を収納する、「スメニエsemainier」と呼ばれるかみそり箱や、カフスボタンと呼ばれる洗練された袖飾りなど、身だしなみの品を収納するために作られた小箱もあります。ダンディズムの時代、そして趣味の良い英国風装いのお手本とされた「伊達男ブランメル」の時代に作られたこれらの小箱からは、紳士の私的な身繕いの様子をうかがい知ることができ、ボディケアが女性だけのものではなかったことがわかります。
 
同様に、19世紀のブルジョア男性の本質を成す価値観である「富」と「貯蓄」が重要視されていたことは、特に貯金箱の普及に顕著に表れています。1818年にBenjamin Delessert(バンジャマン・ドゥルセール)とFrançois de la Rochefoucaud-Liancourt(フランソワ・ド・ラ・ロシュフーコー・リアンクール)が初の貯蓄銀行、かの有名なCaisse d’Epargne(ケス・デパーニュ)を設立したとき、彼らの目的は何よりも慈善的なものでした。つまり、ナポレオン帝国崩壊後の経済危機の時代に、慎重な資金の運用と貯蓄の利点について人々を教育することを目指していたのです。当然のことながら、この銀行の名前は非常に有名となり、小箱には「ケス・デパーニュ」「貯金」「金庫」などの文字が象嵌されるほどでした。これらの小箱は、持ち主に貯蓄の価値の重要性を思い出させてくれていたのです。
 

社交界を反映する小箱
洗練された品々を味わう

紅茶、コーヒー、チョコレート、ヴァニラ、さらに砂糖やタバコ、小菓子などを保存するために作られた小箱は、19世紀が洗練された風味を消費する時代であり、物質的なゆとりを肯定する時代であったことを印象づけています。こうした食料品や嗜好品の消費は、ブルジョアや貴族階級の家族の一日を彩るものでした。
 

関連書籍

フランス語にて、「ロマン派時代の小箱」に関する書籍が出版されています。
 
« La boîte en toutes lettres : abécédaire de la boîte romantique en France au 19ème siècle »
ISBN 978-2-7466-8755-4
 
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展覧会歴

2015年

6月〜9月 シャトーブリアン美術館(フランス・ Châtenay Malabry)『ロマン派時代の小箱とケース、フランス風アール・ド・ヴィーヴル』展

2016年

11月〜2017年5月 Roybet Fould美術館(フランス・Courbevoie)『フランス風アール・ド・ヴィーヴル:19世紀後半の小箱とケース』展

2017年

5月〜9月 アレクサンドル=デュマ美術館(フランス・Villers-Cotterêts)『ロマン派時代の小箱 - パリジェンヌの時間』展

2018年

5月〜10月 シャツ美術館(フランス・Argentopn sur Creuse)『ロマン派時代の小箱、男性のエレガンスとアール・ド・ヴィーヴル』展

2019年

5月〜11月 Aulteribe城(フランス・Sermentizon)『すべての小箱』展

2019年

8月〜10月 ルイ=フィリップ美術館 - EU城 - (フランス・ノルマンディ地方)『さまざまな小箱たち 〜ロマン派時代の小箱、フランス的アート〜』展

2020年

9月〜2021年4月 Gallé-Juillet美術館(フランス・Créil)『ロマン派時代の生活』展

 

2018年開催、シャツ美術館『ロマン派時代の小箱、男性のエレガンスとアール・ド・ヴィーヴル』展に関する学芸員の紹介映像(フランス語のみ、youtubeによる自動翻訳で日本語設定可能)
 

2019年開催、Aulteribe城『すべての小箱』展に関する、フランス地方TVニュース番組の紹介映像(フランス語のみ、youtubeによる自動翻訳で日本語設定可能)

 

2018年開催、シャツ美術館『ロマン派時代の小箱、男性のエレガンスとアール・ド・ヴィーヴル』展に関する学芸員の紹介映像(フランス語のみ、youtubeによる自動翻訳で日本語設定可能)
 

2019年開催、Aulteribe城『すべての小箱』展に関する、フランス地方TVニュース番組の紹介映像(フランス語のみ、youtubeによる自動翻訳で日本語設定可能)

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